「まつりばやし」で描かれたノラの過去 3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?(ネタバレあり)
昔のアニメを愛するWebエンジニア、せみやまです。
今回は僕が大好きなアニメ「3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?」の「まつりばやし」という回についてお話したいと思います。
目次
3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?とは
「3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?」は、人気キャラクター「タマ&フレンズ」から派生したアニメ作品で、1993年~1994年にかけてTBS系列で放送されました。一期と二期に分かれ、一期の前半はOVA作品「3丁目物語」をそのまま放送しています。
「3丁目物語」は、従来の「タマ&フレンズ」のイメージを大きく崩すことなく映像化したもので、タマたちが喋る事はないのですが、一期の後半から、タマやポチたち、タマ&フレンズのみんなに声優があてられ、セリフを喋ります。
この、タマたちが喋る事に関しては違和感を覚える人もいるのですが、僕自身は楽しく仲良く喋りまくるタマとフレンズたちが大好きで、何度でも見返したくなるアニメです。
現在、動画配信などはされていないようですが、Blu-rayに作品がまとめられており、これを中古で購入する事で、作品を鑑賞する事ができます。
まつりばやし 3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?
今回紹介する「まつりばやし」という話は、二期の第17回放送の後半として放送されました。※うちのタマ知りませんか?は基本的に1回の放送が前半・後半に分かれていました。
「トラウマ回」として紹介される事も多い「まつりばやし」。
「うちのタマ知りませんか?」のそれまでのお話では描かれる事がなかった「死」を扱っています。
捨てられた子猫の死。
ノラの主人だった人間の女性の死。
猫や犬が主人公の作品で子猫の死を描くのは、そうでない作品で人の死を描くのと同じ重さがあると思います。
さらにその上で、人の死も描いているのです。
しかも、演出の凄さも相まって、この回で描かれる死は、観る人の心に深く突き刺さってきます。
自分の中で、この作品は単独でも成立しているのですが、ノラの過去と心の動きを描いた三部作の1話目だと考えています。
「まつりばやし」「パラダイス・オブ・カニカン」「笛のささやき」が、僕の考えるノラ三部作です。
「まつりばやし」では、ノラの過去と、ノラが背負ってきた悲しみにスポットがあてられます。
まつりばやし あらすじ
縁側に座る女性。隣には、幼いノラの姿が。
部屋の中には「内容薬」と書かれた袋が見える。
その目に光は無い。
うちわを持つ女性の手は、微動だにしない。
不思議そうに女性を見上げる幼いノラ。
木材置き場で目覚めるノラ。
ノラは幼い頃、自分の飼い主だった女性との記憶を、夢に見ていた。
場面転換して、神社の階段を息を切らせて走る少年。
切羽詰まった表情。
今日はお祭りの日。3丁目の神社は賑わっていた。
箱を抱えて、苦しそうに走る少年。
箱の中には子猫。
少年は、神社に子猫を捨てに来たのだった。
少年「人が来る… いっぱい来る… 見つけてくれる。 子猫を見つけてくれる。誰かが 誰かが拾ってくれる…」
自分に言い聞かせるように繰り返す少年。
※自分の心を押し殺すように呟く少年の姿に、彼が強い罪の意識を感じている事、恐らく自分の意志ではなく、家族に促されて猫を捨てに来たであろう事が察せられます。
突風が吹き、少年の被っていた帽子を空に舞い上げる。
※この帽子、少年は回収する事ができず、神社に残ります。
少年にとっては、自分が猫を捨てたという事実は誰にも知られたくないこと。
しかし、彼の帽子は、彼がここに来たという事実を、そこに留めています。
ノラを誘って、お祭りで賑わう神社に遊びに行くタマたち。
いつもの神社とは違うハレの雰囲気に、わくわくするタマたち。
※少年の残して行った帽子にポチだけが気づきますが、足を止める事はありません。
神社でお昼寝するノラたち。
眠りに入ったノラは、再び過去の記憶の中に。
女性の青ざめた唇に血の気は無い。
女性の唇に爪を立てるノラ。
女性の唇から流れる血。
それでも女性は動かない。
すでに女性は事切れている…。
※女性が病を患っていたこと、療養中だった事は、部屋に置いてある薬や服装から察せられます。
爪を立て、血を流しても動かない女性を見て、ノラの瞳が震える描写が入るのですが、ここで幼いノラは本能的に「死」を理解したという事だと思います。
主人の唇から流れ出た血を、口づけするように一度舐めるノラ。
うちわが女性の手から落ちる。
女性を残し、野良猫として生き始めるノラ。
かすかな声を聴き取り、目を覚ますノラ。
昼寝を続けるタマたちを残し、走り出すノラ。
少年が捨てた子猫を見つけるノラ。
小刻みに震える子猫に、きょとんとするタマたち。
トラ「この子なんで震えてるんだい?」
震える子猫を見て、ノラの記憶が蘇る…。
※現在の出来事とノラの記憶がリンクして、ノラの過去が少しずつ明かされて行きます。
かなり頻繁に現在と過去を行ったり来たりしているんですが、つなぎ方が上手く、すっと心に入ってきます。
季節は夏なのに、震えているノラ。
※子猫は体温調節能力が低く、一度低体温になると、どんどん衰弱してしまう事があります。
この時のノラは、そうした状態だったかもしれません。
「死ぬな。死ぬな!
あんたは生き続けなくちゃ。
あんたは生きて!」
※ノラを励ます女性の言葉は、女性が自分の死期が近いと悟っていた事を感じさせます。
自分がお世話をしたノラが生き続けてくれる事が、彼女にとっての希望だったのかもしれません。
「寒いんだ」と気づくノラ。
子猫に寄り添い、暖めるノラ。
子猫をノラに任せ、タマたちはそれぞれの飼い主に助けを求めに走る。
しかし、町の人たちはお祭りに出かけてしまっていた。
タマの飼い主のたけしくん、モモちゃんの飼い主のえみちゃんも、お祭りの会場に来ていた。
動物病院も、休診していた。
まつりばやしの中、談笑する人々と、
衰弱していく子猫の対比が描かれる。
ようやく、たけしくんとえみちゃんを見つけたタマとモモちゃん。
二匹の様子に異変を察する二人。
しかし…。
ノラ「同じだ…」
「あの時と、同じ…」
かつての主人が亡くなった時には流さなかった涙を、とめどなく流すノラ。
泣き崩れるえみちゃんと立ち尽くすたけしくん、うつむくタマたち。
たけし君の声「まつりばやしが遠くでいつまでも鳴いていました」
「まつりばやし」に感じた事
「あの時と、同じ…」というノラの言葉。
お世話になった主人を救えなかった「あの時」と同じように、子猫を救えなかった事が「同じ」なのか。
ノラは、女性に飼われる以前も野良猫だった事が作中のセリフから分かるようになっているんですが、子猫の頃に捨てられた自分自身と、神社に捨てられた子猫の境遇ががあまりにも「同じ」だったのか。
まつりばやしが聞こえる中で、祭りを楽しむ人々と、子猫を救おうとしたノラたちの対比。
誰かが楽しんでいる時に、誰かが深く傷ついている、世界ってこうなんだよなと感じる、すごい話でした。
あまりにも悲しい結末ですが、ここで徹底してノラの悲しみと過去を描く事で「パラダイス・オブ・カニカン」での仲間との友情、「笛のささやき」で描かれるノラの成長が、より深い意味を持てたと思います。
「まつりばやし」制作陣の葛藤
この「まつりばやし」、あまりにもシリアスな内容なので、制作陣にも葛藤があったようです。「3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?」のBlu-rayのブックレットに記載されていた内容を、一部転載します。
その日、会議室にはスタッフが揃っていた。呼び出されて席に着くなり、タマで死をテーマにすることを反対された。色彩設計・松浦恵理子氏は飼い猫と死別したばかりでもあり、会議室の空気は濡れていた。タマというキャラクターの持つ高いポテンシャルはなかなかのせられないテーマも語ることが出来ると信じ作った話だ。だがその純粋さゆえに届きすぎるぐらいスタッフの心に届いていた。
スタッフ皆の思いに、死別することなくハッピーエンドで終わる話へと改訂し、ソニーさん、毎日放送さんへ今一度プレゼンに向かった。そこで掛けられた言葉はこうだ。「タマだからこそ語ることのできるテーマだと熱く語っていた思いはどうしたのですか」
スタジオに戻り、子猫の命も人間の命も同列に語るべくノラのエピソードを創ったことなど思いをぶつけるだけぶつけると、スタッフ皆頷いてくれた。
松浦氏は、まだデジタル作業ではなかったこの時代、セル一枚一枚にありったけの愛情をこめて、子猫の輪郭線を絵具で引いた。
「3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?」第二期シリーズ構成・外山草さんのコメント
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画像出典:3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?