「パラダイス・オブ・カニカン」で描かれたノラと仲間の絆 3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?(ネタバレあり)
アニメ「3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?」の「まつりばやし」「パラダイス・オブ・カニカン」「笛のささやき」を、ノラを中心に描いたノラ三部作と位置づけているんですが、前回の記事では「まつりばやし」について書きました。
今回は「パラダイス・オブ・カニカン」についてお話したいと思います。
ノラ三部作は僕が勝手に定義したものなんですが、実は3つ目の「笛のささやき」はノラ中心のお話ではありません。
ただ、ノラの心の変化を感じられる印象深いシーンがあるので、それを含めて三部作としています。
なので、ノラ三部作中、ノラが中心となってお話が展開するのは「まつりばやし」と、今回の「パラダイス・オブ・カニカン」になります。
パラダイス・オブ・カニカン 3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?
前回の「まつりばやし」は、命の重さ、それぞれのキャラクターの感情のうねりが凄まじい密度で感じられる作品でした。今回の「パラダイス・オブ・カニカン」も、悲しいシチュエーションが出て来ますし、ノラの感情や行動にかなり切実なものが含まれているんですが、タマ本来のコミカルさも存分に含まれていて、楽しめる回になっています。
野良猫のノラが、飼い猫である友人たちと自分との差を感じ、ある洋館で出会った寂しくも恐ろしい存在と共鳴するという展開になりますが、仲間との結びつきや心の交流のおかげで、「まつりばやし」で描かれた悲しい過去、孤独から一歩を踏み出していく、ノラ三部作の中でも重要な話になっています。
いつもは1回約30分の放送が前後に分かれ、それぞれ違うお話を放送していたタマのアニメですが、パラダイス・オブ・カニカンは前後編で1つのお話になっています。
パラダイス・オブ・カニカン あらすじ
タイトルを飾るのは、「パラダイス・オブ・カニカン」で、ノラとドタバタコンビを組むトラです。
かわいいですね~!!
とぼとぼと、道を歩くトラとノラ。
どうやら二匹で迷子になっているようです。
トラ「ノラにはつき合いきれないや」などと悪態をつき合いながら歩く二匹。
なぜこうなったのか?という事で、以下回想です。
トラの飼い主、大工の木曽トメ吉さん。
大奮発して、トラにカニ缶を食べさせてくれます。
初めて見るカニ缶に対して、最初はおそるおそる、そして一口味わった後は大胆に。
あまりの美味しさに、もんどりうって喜びを表現するほど、カニ缶が気に入ったトラ。
しかし、カニ缶が食べられたのは一度だけで、その後はいつも通りの猫まんま。
トラは、カニ缶の味が忘れられません。
トラは友だちで野良猫のノラに、カニ缶の美味しさについて熱く語ります。
ノラ自身はカニ缶を食べた事はありませんでしたが、「待てよ…それってあれの事かな?」と、何やら心当たりがある様子。
ノラが以前、お腹が空いて困っていた野良猫に食べ物をあげた時、その猫がある場所について話をしていたのでした。
「すんごく美味しいものをタダで食べさせてくれるんだ。そこには今でもたくさんの野良猫が住んでいるんだ」
すんごく美味しいもの=カニ缶
と短絡的に結び付けたトラが思い描いたのがカニ缶の楽園=パラダイス・オブ・カニカン。という事ですね。
トラ「それはパンライスだ!」
ノラ「パラダイスだろ?(汗)」
という小コントを挟みつつ、6丁目の先にあるという、その場所を探しにいき、二匹で迷子になった。という訳でした。
ブーブー文句を言ってノラに責任を押し付けるトラに、ノラも売り言葉に買い言葉で、険悪になります。
この二匹、普段からそうなんですが、パラダイス・オブ・カニカンでも、何度も何度もケンカしては仲直りして、を繰り返します。
そこがとてもコミカルに面白く描かれています。
トラ「ノラの顔なんか見たくもないよ!さっさと行っちまえ!」
ノラ「あぁそうか。だったらここでお別れだな」
と、激しい言葉の応酬になり、二匹はケンカ別れをして、別々の方向に歩きだします。
トラが一匹であてもなくさまよう内に、カニ缶の匂いをかぎつけ、そちらに向かってみると、廃墟と化した不気味な洋館が。
匂いを辿って洋館の敷地を進むと、なんと、扉の前にカニ缶(開封済み)が!!!
明らかに罠ですが、大喜びでカニ缶に飛びつくトラ。
トラの後ろに立つ、黒い影。
やはりカニ缶は罠だったのです。
大猿(?)によって、洋館の部屋に閉じ込められ、「ここから出せー!」と暴れるトラ。
しかし、部屋にはすでに多くの猫たちが閉じ込められており、猫たちのボスに「無駄な事はやめな。どうせここから出る事はできないんだからよ」と諭されます。
二度とここから出られないの?と不安がるトラに、ボス猫はニヤリと「希望はあるんだ」と言います。
なんと秘かに穴掘りがうまい猫たちが床下に穴を掘り、脱出作戦を計画していたのです。
まるで映画の「大脱走」ですね。
そして「大変なとこに来ちゃったなぁ…どうしてこんな事に…」と嘆くトラに「トラ!トラかい?」と呼びかける声が。
別行動していたノラも、部屋に閉じ込められていたのでした。
二匹は再会を喜び、仲直りします。
そこへ大猿がやって来て、ノラを捕まえます。
何するんだよ!と叫ぶトラをボス猫は押さえて「見て見な。そんなに悪い奴じゃねぇんだ」
「あいつは俺たちと一緒にいたいんだよ」
大猿はノラに悪さをする訳ではなく、愛おしそうに抱きしめ、撫でていました。
愛おしそうにノラを見つめる大猿。
ノラと大猿の視線が交わります。
ノラを放せ!と飛びついてきたトラに大猿は困り、トラとノラをロープで結びました。
そして大猿はカニ缶を猫たちに与え、食べさせます。
お腹が空いた猫たちはカニ缶に群がり、むしゃぶりつくように食べます。
その様子を見て、トラは全てを理解しました。
トラ「ここだったんだ…パラダイスはここだったんだ…」
楽園という言葉の持つイメージとはどこまでもかけ離れた、閉ざされた廃墟の中で…。
ノラは「あの大きいやつ、なんだか寂しそうだったね」と、大猿を気にする様子です。
他の猫と違い、野良猫として生きて来たノラは、孤独という感情と誰よりも向き合ってきました。
大猿についても、その表面的な恐ろしさよりも、心の深奥の寂しさに、種を超えて共鳴したのだと思います。
そんなノラに「ノラはいいよなぁ~ こんなところにいても誰も心配しないからさぁ~」と心無い言葉をぶつけるトラ。
ノラもこれには激おこです。
仲直りしたと思ったら、またケンカ。という天丼を限りなく繰り返す二匹です。
穴掘り猫の活躍により、館の外への通路は出来たのですが、よりによって出口は大猿が寝床にしている檻の前でした。
計画の見直しも検討されましたが、穴掘り猫の疲労も限界に来ていました。
ボス猫の「よーし分かった。今夜、脱出作戦を決行する!」という一声で、決行が決まりました。
洋館内を一匹で歩く大猿。
階段に、幼少期の大猿と、飼い主らしき人物の写真が。
大猿はある部屋で足を止めます。
ソファには、ぴくりとも動かない人影が見えます。
大猿は人影の隣で「ウォオオオゥ!」と慟哭しました。
大猿が眠っているのを確認して、抜き足忍び足、一匹ずつ逃げ出す猫たち。
「一体何者なのかな…」と、大猿が気になるノラ。
大猿が気になって足が止まるノラと、トラがもみ合っている内に、ロープが千切れます。
その音で大猿は目覚め、怒りの叫びを上げます。
ノラを捕まえた大猿の目は、しかし泣いていました。
再び、大猿の心に触れたノラは、ハッとします。
他の猫も捕まってしまい、苦労して掘った穴は、石で塞がれてしまいました。
洋館に連れ戻されるノラを、木陰から見ていたトラは「関係ないよ、あんな奴…」と言って、ただ見送るのでした。
翌日、美味しそうにご飯を食べるトラ(ノラを置き去りにして美味い飯が食えるのか!?)の元に、タマたちがやって来て、トラの無事を喜びます。
トラは感激しますが、ノラは?と聞かれると「知らない!関係ないよあんなやつ!」と意地を張ります。
一方、洋館では「お前のせいでこうなったんだぞ!」と責められるノラの姿が。
しかし、ノラは寂しそうな大猿の泣き顔が、頭から離れませんでした。
ノラ「寂しいんだ… 寂しいんだよ」
そして「ノラはいいよなぁ~。こんなところにいても誰も心配しないからさ」というトラの言葉が、いつまでも心に突き刺さっていました。
そこに、いつものように、カニ缶を持って大猿がやって来ます。
隙を見て逃げようとする猫を大猿は捕まえて、威嚇します。
怒る大猿の前に飛び出したノラは叫びます。
ノラ「放せ! 君を裏切って、穴を掘ったりして悪かったよ。でも、ここにいるみんなには帰る家があるんだ。仲間が待っているんだよ。みんなを家に帰してやってくれないか?」
ノラ「その代わり僕が残るよ。僕が君とずっと一緒にいるよ!」
一瞬、意外そうな顔をした後で、大猿は微笑み、嬉しそうにノラの頭を撫でました。
ノラ(どうせ、僕もひとりぼっちなんだから…)
あまりにも悲しい、ノラの決意でした。
結局、自分には他の猫と違って、居場所は無い。本当に待っていてくれる誰かは、自分にはいない…。
でも、この前のこいつなら、自分を心から必要としてくれる。
自分が心の奥底で求めていた「誰かと一緒にいたい」という気持ちを、お互いに満たし合えるのなら、もう誰だっていいじゃないか。
そんな諦めとともに、状況を受け入れたように描かれています。
誰かと一緒にいたいという気持ちは人間の本能に刻まれていると思うので、ここでのノラの感情には、多くの人が揺さぶられるのではないかと思います。
トラからノラの居場所を聞き出し、走るタマ一行。
しかし、意地を張ったトラは同行していません。
館では、ノラ一匹を残して、猫が解放されているところでした。
去り際に「お前のせいでこうなったんだから、これが当たり前だよな」と毒づいてみせる猫に、ノラはあっけらかんと「みんな、元気でな」と別れを告げます。
毒気を抜かれた猫たちは、ノラを残して行く事に罪の意識を感じながらも、去っていきました。
トラは自宅で「関係ないよ、あんなやつ」と言いながら、千切れたロープの片割れを、じっと見つめていました。
大猿は自分とノラをロープで結びつけます。
「大丈夫だよ。僕は裏切らない」というノラに、大猿は笑みを見せます。
大猿の過去の記憶が蘇って来ます。
「霊長類系統学」という本を読む、大猿の飼い主。
霊長類というのはヒトや類人猿を含んだサルの仲間です。
大猿の飼い主は、霊長類の研究者だったのかもしれません。
かつては花が咲き誇り、本当の楽園のようだった洋館。
幼い大猿と飼い主は、そこで仲良く暮らしていました。
檻で飼われていた大猿の元に、たまに猫が遊びに来ていました。
「あら、お友達?」と、飼い主がカニ缶を与えると、猫は美味しそうに食べました。
大勢の猫がやってきてカニ缶を味わいましたが、食べ終わった猫は、さっさと帰ってしまいます。
大猿にとってカニ缶だけが、他の誰かとつながるための手段だったのです。
思い出の中に沈んでいた大猿が気づくと、そこにはタマたちの姿が。
ノラはタマたちが来てくれた事を喜びますが「…悪いけど、帰ってくれないか 僕はここで生きていく事に決めたんだ」と、タマたちを拒絶します。
そこに「関係ないよ。関係ないよあんなやつ!」と、トラが登場!
トラ「ノラを放せ!放すんだ!」
ノラ「トラ、余計なことするな!」
トラ「1人でかっこつけるな!」
タマは「放してよ、ノラは僕たちの仲間なんだ。だから返してよぉ!」
と懇願します。
さらに、逃げたはずの、捕まっていた他の猫たちも、全員がノラのために駆けつけていました。
大猿はうなだれ、ノラを開放すると、一匹で洋館に戻りました。
大猿の事を心配するノラに、ボス猫が「寂しいなんて嘘さ!あいつにはご主人様がいるんだ」と言います。
「帰るんだ、帰るんだよノラ!」と強く促すトラ。
ノラもようやく「みんな、ありがとう!」と笑顔を見せてくれました。
洋館に戻り、人影の元にしゃがみこむ大猿。
人影は、白骨化した飼い主でした。
飼い主にすがりつき、号泣する大猿。
仲直りしたノラとトラでしたが、平和は長くは続かず、ポチが持ってきてくれたカニ缶を巡って大ゲンカが始まります。
どこまでも懲りない二匹でした。
その後、洋館には捜査が入る事になり、大猿はオランウータンだった事が明かされます。
タマの飼い主、たけし君の声で「そのオランウータンは動物園に引き取られたそうです」と解説が入り、パラダイス・オブ・カニカンは締めとなります。
パラダイス・オブ・カニカン 観て感じた事
オランウータン、カニ缶という飛び道具を使いつつも、「誰かと一緒にいたい」という切実な想いを抱えたノラとオランウータンの感情は、誰もが胸に迫るところがあると思います。
ノラ三部作の中編として見た時、「まつりばやし」で、あまりにも悲痛な運命に翻弄されたノラが、仲間という確かな居場所を獲得するという意味で、非常に重要な意味を持つ回だと思います。
本当は「まつりばやし」と「パラダイス・オブ・カニカン」で「ノラ二部作」とした方が内容的にも合っているんですが「パラダイス・オブ・カニカン」でノラの心にしっかりと築かれた仲間とのつながりが、確実にノラの中に生き続けている事を示すシーンが「笛のささやき」に出てくるので、やはりそれを含めて語りたいと思います。
次回の記事ではノラ三部作のトリを飾る「笛のささやき」と、ノラ三部作についての総論を書きたいと思います。
created by Rinker
¥14,500
(2024/12/26 17:41:49時点 Amazon調べ-詳細)
画像出典:3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?