ノラ三部作「まつりばやし」「パラダイス・オブ・カニカン」「笛のささやき」で描かれたもの 3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?(ネタバレあり)
1993~1994年にかけて放送したアニメ「3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?」の「まつりばやし」「パラダイス・オブ・カニカン」「笛のささやき」という3つのエピソードを「ノラ三部作」と定義して、各エピソードについて書いてきました。
今回は各エピソードのまとめと、ノラ三部作で描かれたノラの心の動き、成長について書きたいと思います。
目次
ノラというキャラクター
「うちのタマ知りませんか?」のキャラクターは、主人公のタマを初めとして、基本的に人間に飼われている猫です。(飼い犬もいますが)その中にあって、ノラというキャラクターは野良猫として、飼い主を持たずに自分の力で生きている独特の存在です。
のほほんとした雰囲気のタマたち3丁目の面々に対して、クールな口調と雰囲気のノラは一見、自分を確立した、堂々たる存在のように見えます。
しかし、そのようでいて、実は人一倍(猫一倍?)の孤独と寂しさを抱えているのがノラです。
「誰かと寄り添いたい」という気持ちを、誰よりも切実に抱えているのです。
そんなノラの心の動きを描いた3つのエピソードが、これから紹介するノラ三部作になります。
ノラの過去を描いた「まつりばやし」
「まつりばやし」では、捨てられてしまった子猫にかつての自分を重ね、共鳴するノラの姿が描かれました。
子猫の頃に捨てられたノラは、重い病で療養中の女性に拾われ、一時的ですが飼い猫だった時期がありました。
しかし、女性は病に倒れ、ノラは再度、野良猫として生きる事になります。
か細い子猫の鳴き声を誰よりも早く聴きつけ、子猫の衰弱を悟って、抱きしめて暖めるノラの姿に、同じように衰弱し、命を落としかけていた過去のノラと、ノラを暖め、命を救ってくれた飼い主の女性の思い出がオーバーラップしてきます。
この話の結末としては、かつての自分と同じ境遇の子猫を救う事ができず、無力感に涙を流すノラの姿が描かれる事になります。
あまりにも悲しい結末ですが、ノラが野良猫になった経緯と、親しい人を失い、一人で生きて来たノラという存在が強烈に印象付けられる回です。
胸に誰よりも深い寂しさを抱えながら、気丈に生きるノラというキャラクター。
そのノラが、仲間との出会いで色んな事を感じ、変わっていく。
その心の動きは、単にノラというキャラクターの範疇を飛び越えて、胸に少しでも孤独を抱えた事のある、全ての人の心を揺さぶる力があると考えています。
どこまでも深い孤独との共鳴、仲間とのつながりを描いた「パラダイス・オブ・カニカン」
霊長類の研究者によって飼育されていたオランウータンが主人に先立たれ、孤独を慰めるためにカニ缶を使って猫をおびき寄せ、閉じ込めて愛でているという、おかしくも悲しい「パラダイス・オブ・カニカン」。
トラと共に、オランウータンが暮らす館に閉じ込められたノラは当初逃げ出そうとしますが、深い孤独を抱えたオランウータンの気持ちに共鳴し、心を揺さぶられます。
そして、自分がオランウータンとずっと一緒にいる事を条件に、他の捕まっていた猫を解放させ、自分だけが残ろうとします。
ノラの行動の理由は、ノラ自身が口にしたように、
「どうせ、自分には待っていてくれる誰かはいない」
「自分以外の猫たちには、帰る場所がある。待っている飼い主がいる。みんなを、元の場所に戻してあげたい。」
というものですが、オランウータンの深い孤独に共鳴し、そこに寄り添いたいという気持ちもあったと思います。
一人ぼっちで生きて来たノラには、オランウータンの気持ちが誰よりも分かったのです。
ですが、タマやトラ、そしてノラのおかげで外に出る事ができた、閉じ込められていた猫たちがノラのために集結し、ノラを連れ戻しにきます。
オランウータンの事を気にかけながらも、必死で自分を助けようとしてくれた仲間たちの心に触れて、ノラの心に確かに灯るものがあったと思います。
帰る場所は無い。でも、この仲間たちがいるところが、自分の居場所だと。
ノラの心の変化が感じられる「笛のささやき」
ノラ三部作の最後のエピソード「笛のささやき」ですが、この話自体は、ノラが中心の話ではありません。
しかし、この話のクライマックスでノラがとる行動は「パラダイス・オブ・カニカン」でノラの心に灯った仲間とのつながり無しにはありえません。
そのため、この話を含めて「ノラ三部作」としています。
「笛のささやき」あらすじとノラ三部作のまとめ
最近、タマたちは面白くありません。みんな、塾や仕事でタマたちにかまってくれないのです。そんな時、不思議な笛を吹く人物が現れます。
笛吹きと、彼が連れている猫は「自分の主人のことや、友達のこと、お天気のことや食べ物のこと、遊ぶことや寝ることを何も考えなくてもいいところ」に、タマたちを誘います。
「人間はそこをユートピアと呼んでるけどね…」と、謎の猫。
食べ物も寝ることも気にしなくていい場所、それは黄泉の国なのでは…?と思わせる、妖しい語り口です。
忙しくなくなったら、みんな前みたいに遊んでくれるよ!だから行かない。というタマに「それはどうかな?」と薄く笑う、笛吹きの連れた猫。
笛吹きは、忙しくて猫と遊んでなんかいられない!というタマたちの飼い主一人一人の元を訪れ「忙しくなくなったら、猫と遊んであげますか?」と質問を投げかけます。
みんな冗談だと思い、軽い気持ちで「ああ、いいとも!」安請け合いをするんですが、笛の男は念を押すように「約束ですよ」と言って、不思議な音色の笛を吹きます。
すると、笛の不思議な力で、商売をやっている人のところは客足がピタリと止まって忙しくなくなり、タマの飼い主のたけし君は、テストで100点をとって塾に行かなくてもよくなります。
しかし、結局忙しくなくなったらなくなったで、「商売あがったりで、猫と遊んでいるヒマなんてない」「次に悪い点とったらどうしよう。やっぱり塾に行かなくちゃ」と、タマたちと遊んであげる事はしません。
このあたり、ミヒャエル・エンデの「モモ」を思わせる展開で、忙しさに自分や大切なものを見失いそうになる現代人には、身につまされるところがあります。
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笛の男はがっかりするタマたちを「何も考えなくてもいいところ」に連れて行こうとします。
しかし、ギリギリのところで、大切な飼い猫、飼い犬のことを思い出した人々が「タマ!」「ポチ!」と、それぞれの名前を呼ぶ事で、タマたちは踏みとどまり、それぞれの家に帰っていきます。
そんな中、野良猫であるノラには、名前を呼んでくれる飼い主はいません。
しかし、ノラははっきりと口にします。
ノラ「1人で行っても、つまんないや」
以前のノラだったら、ここで踏みとどまれたかどうかは分かりません。
心に深い傷と孤独を背負い、一人ぼっちで生きて来たノラが、仲間と出会い、呼んでくれる飼い主がいなくても、仲間と一緒に生きていく事を選べたことを、とても尊く感じます。
「まつりばやし」「パラダイス・オブ・カニカン」「笛のささやき」の三作品では、全てに林民夫さんという方が、脚本担当として参加されています。
オムニバス形式のアニメである「うちのタマ知りませんか?」ですが、ご自身の担当された回を通して、ノラの心の動きと成長を描こうという、明確な意思を持っていたのだと思います。
そこで描かれたものは、今もなお、時代を超えて人の心を揺さぶる力を持っているのです。
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画像出典:3丁目のタマ うちのタマ知りませんか?