ウォンディウォイキノボリカンガルーという動物のこと
ILLUSTRATION BY PETER SCHOUTEN
マイナーな動物や珍獣、絶滅危惧種や絶滅種など珍しい動物が好きで、そういうテーマの本をよく読んでいるんですが、まだまだ知らない動物って多いな・・・と思わされる事があります。
哺乳類だけでもおよそ4300種~4600種ほどいるそうなので、書店で普通に買える動物図鑑に載っている種類というのは、ごく一部に過ぎないので、当たり前と言えば当たり前なんですけどね。
今回は最近初めて存在を知った動物、その名も「ウォンディウォイキノボリカンガルー」という、不思議な響きの名前を持ったカンガルーについてご紹介します。
目次
90年ぶりの再発見!ウォンディウォイキノボリカンガルー
このウォンディウォイキノボリカンガルーは、樹上で生活するカンガルーの仲間「キノボリカンガルー」の一種です。樹上性のカンガルーって何やねん??と思われる方もいるかもしれません。
カンガルーと言えばオーストラリアの平原を飛び跳ねているイメージが強いんですが、キノボリカンガルーはニューギニア島の熱帯雨林に生息し、サルのように樹上で暮らす生き物です。
普通のカンガルーもキノボリカンガルーも、共通の祖先を持っているんですが、普通のカンガルーはオーストラリアの乾燥した大平原に適応して進化しました。
ニューギニアではオーストラリアのような乾燥化が進まず、今も熱帯雨林が広がっているため、樹上生活に適応したキノボリカンガルーが進化してきた訳ですね。
引用:よこはま動物園ズーラシア
よこはま動物園ズーラシアでは、キノボリカンガルーの一種「セスジキノボリカンガルー」に会う事ができます。
そんなキノボリカンガルーの一種であるウォンディウォイキノボリカンガルーですが、1928年に進化生物学者のエルンスト・マイヤーによって発見されました。
発見されたのはニューギニア島の西端にある西パプワ州のウォンディウォイ半島の山中でした。
この時に射殺されたオスの個体がウォンディウォイキノボリカンガルーの唯一の標本で、その後90年間に渡り、ウォンディウォイキノボリカンガルーの目撃情報が報告される事はなく、絶滅したのだろうと言われていました。
アマチュア植物学者マイケル・スミス氏による再発見
2018年、英国ファーナムのアマチュア植物学者マイケル・スミス氏率いる探険隊がウォンディウォイキノボリカンガルーの調査のため、ウォンディウォイ半島のジャングルに足を踏み入れました。マイケル・スミス氏。
引用:Daily Mail Online
大学で生物学を専攻したスミス氏は医療系サービス会社に勤めながら、休暇には希少なラン、ツツジ、チューリップなどを求めてパキスタンやクルディスタン、インドネシアなどを訪れ、2015年にはクルディスタンでチューリップの新種を発見するなど、実績のある植物学者です。
2015年にチューリップの新種、そして今回はキノボリカンガルーの再発見と、相当な手練ですね。
今回の調査は、2017年にスミス氏が西パプワ州の山地でツツジを探していた時に謎の生物の話を聞き、そこからスタートしたそうです。
探険隊はスミス氏の他、パプア人のポーター4人とガイド役の地元のハンターでパプア大学に通うノーマン・テロック氏。
テロック氏は自然史への情熱を持つ、スミス氏にとっての同士のような存在だそうです。
今回、現地で最初にウォンディウォイキノボリカンガルーを発見したのも、このテロック氏でした。
現地では標高1300メートルあたりを境にうっそうとした竹やぶが始まり、地元のハンターが足を踏み入れる事はありません。
この事が、ウォンディウォイキノボリカンガルーの再発見を遅らせると同時に、彼らを狩猟による絶滅から守る事に繋がったのでしょうね。
スミス氏の探険隊が標高1500~1700メートルまで登った時、キノボリカンガルーが木の幹に残すひっかき傷と、排せつ物・・・落とし物が目に付くようになったと言います。
縄張りを示すためのにおいも、セットで確認出来たそうです。
キノボリカンガルーの存在を示す痕跡物はあるものの、肝心のキノボリカンガルーそのものには、なかなか遭遇する事が出来ず、スミス氏たちも、一時は諦めかけていたそうです。
その時、ハンターのテロック氏が、高さ30メートルの樹上にキノボリカンガルーを発見。
スミス氏は葉っぱの間からかろうじて見る事が出来たその姿にピントを合わせ、シャッターを切り続けました。
引用:ナショナル・ジオグラフィック
引用:Smithsonian Magazine
引用:WEST PAPUA NOW
カンガルーよりも、ちょっとコアラに似ていて可愛い動物ですよね。
この発見が専任の学者ではなく、アマチュアによって発見されたと言うのが、印象的ですね。
プロの学者に比べて資金調達などは簡単ではない分、好奇心の赴くまま、自由に探索、研究を進める事が出来る。
すごくロマンを感じますね。
そう言えば西湖のクニマスも、さかなクンによって再発見されたんでしたね。
さかなクンは東京海洋大学名誉博士という肩書を持っているので、アマチュアではないですが、タレントと兼任ですし、東京海洋大学の役職にも一直線で就いた訳ではないので、意味的には近いかなと思います。
ウォンディウォイ半島の位置は?
今回の大発見の舞台となったニューギニアのウォンディウォイ半島。グーグルマップで位置を調べてみました。
グーグルマップで航空写真に切り替えてみると、周辺に都市らしいものはほぼ見当たらず、相当な僻地だな、という感じがします。
ウォンディウォイキノボリカンガルーの未来
せっかく再発見されたウォンディウォイキノボリカンガルーですが、ウォンディウォイ山地を含む国立公園で金鉱を作る計画が進行中で、その将来が不安視されています。このかわいいカンガルーがいつまでも暮らしていける世界であって欲しいですね。
世界の果てのような場所で、人間社会と関係なく命をつなぐ不思議な生き物がいてくれると考えると、ふわりと心が軽くなり、人間世界の煩わしいあれこれを、一時忘れられるような気がします。
キノボリカンガルーの動画
上の動画では、キノボリカンガルーの一種で「熱帯雨林のテディベア」の異名を持つアカキノボリカンガルー(Matschie’s tree-kangaroo)に、調査のため、捕獲して発信機をつける様子が見られます。
逃げようとするキノボリカンガルーの太いしっぽをわしづかみにして逃がさない様子、ちょっとかわいそうだけど可愛いですよ。
動画に出演した「熱帯雨林のテディベア」こと、アカキノボリカンガルー氏。
引用:Jaganath