第68期王座戦 最終局(常盤ホテル)
110手で永瀬王座が勝利し、初のタイトル防衛を決めました。
目次
挑戦者は、振り飛車党の総帥・久保利明九段
永瀬拓矢王座に挑戦したのは、振り飛車党の実力者・久保利明九段です。今回の王座戦の挑戦者決定戦では、「現役最強」の呼び声も高い渡辺二冠を久保九段が破り、挑戦を決めました。
その時、「これは面白くなってきたぞ…」と、思わずニヤニヤしていたんですが、それには理由がありました。
将棋には大きく分けて「居飛車」「振り飛車」の二大戦法があり、居飛車は基本的に大駒の飛車を初期位置から動かさずに戦い、振り飛車は横に振って(移動させて)戦います。
ここ数年、トップ棋士の間では振り飛車が指される事が激減し、将棋AIには飛車を振った時点で評価値を下げられる(悪い手を指したと判定される)事もあって、振り飛車使いは「不利飛車」という蔑称で、日陰者扱いを余儀なくされてきました。
しかしアマチュアには振り飛車党は多く、僕も将棋アプリでは「中飛車」「三間飛車」などの振り飛車系の戦法を常用しています。
2019年の12月には、都内で行われたイベント「中飛車ナイト」にも参加しました。
そんな振り飛車党にとって、振り飛車のスペシャリストである久保九段は「振り飛車党の総帥」なのです。
現在、8つある将棋のタイトル全てを、居飛車党の棋士が独占しています。
そんな居飛車至上主義、居飛車+評価値ディストピアに、久保九段が風穴を空けてくれるかも知れない…!
振り飛車党として、そんな特別な想いを持って、この王座戦の行方を見守っていました。
久保九段については、上の記事でも紹介させていただきました。
迎え撃つは「軍曹」永瀬王座
挑戦を受けるのは、将棋へのストイックな姿勢から「軍曹」の異名で知られる、永瀬拓矢王座。
先日閉幕した第5期叡王戦では、挑戦者の豊島竜王と「死闘」と呼ぶにふさわしい大熱戦、超手数の戦いを繰り広げ、「史上初、二局連続の持将棋(引き分け)」「タイトル戦の最長手数を更新」などの記録を打ち立てたのは、記憶に新しいところです。
また、先日発売された「将棋の渡辺くん」5巻では「名刺を作ったけど、渡すと減っちゃうから渡さない」というエピソードが紹介されており、話題に事欠かない人物です。
写真は、2019年11月23日・24日の2日に渡って開催された「将棋の日 in 甲府」のサイン会で、永瀬二冠(当時)にサインをいただいた時のものです。
第4局は「粘りのアーティスト」の本領発揮。誰もが驚いた大逆転劇!
番勝負は、第1局:永瀬王座の勝ち
第2局:久保九段の勝ち
第3局:永瀬王座の勝ち
という進行となり、第4局の時点で、久保九段はカド番に追い込まれ、後が無い状況でした。
ホテルオークラ神戸で行われた第4局は、中盤で永瀬王座がペースを握り、攻め続ける展開となりました。
しかし、受けに回った久保九段、ここからが強かった。
攻めても攻めても決定打を与えない、その指し回しは「粘りのアーティスト」の異名を持つ久保九段の真骨頂!
abemaの中継で見ていましたが、1分将棋の中で永瀬王座の指したある手を境に、AIの示す数値が「久保九段有利」に。
最終的に久保九段が逆転勝利を収め、2対2のフルセットに持ち込みました。
第4局は、最後までどちらが勝つのか分からない大熱戦で、リアルタイムで見る事が出来たのは幸運でした。
第68期王座戦 最終局は、永瀬王座の勝利=防衛。
永瀬王座と久保九段の王座戦の最終局は、戦型は久保九段の先手中飛車。序盤から永瀬王座の角と久保九段の飛車との交換になり、久保九段は盤上に二枚の角を投じ、端攻めを絡めつつ攻めていったのですが、永瀬王座が機敏に対応し、徐々に永瀬王座が優位に立ちました。
最終盤、abemaではAIが表示する永瀬王座の勝利の可能性が「99%」に。
110手で久保九段が投了し、永瀬王座が勝利しました。
この勝利により、永瀬王座はタイトルの初防衛を決めました。
振り飛車党としては、久保九段に勝って欲しかったという想いもありましたが、ここ数年の将棋は、挑戦者がタイトルを奪取する展開がほとんど(渡辺三冠以外、防衛に成功していない)だったので、土俵際で強く戦い、タイトルを守り切った永瀬王座の姿は、とても恰好よかったです。
久保九段も、特に第四局で見せてくれた「粘りのアーティスト」の健在ぶりと大逆転劇、永瀬王座を相手にフルセットまで持ち込んだ勝負術は「振り飛車は終わってない!」と思わせるのに十分だったと思います。
2018年の王座戦も常盤ホテルが決着局
第66期王座戦の最終局も常盤ホテルで行われました。中村太地王座 対 斎藤慎太郎七段のイケメン同士のタイトル戦で「王座戦ならぬ王子戦」と言われ、ニコ生のコメントも盛り上がっていた記憶があります。
※肩書・段位は当時のものです。
今回はウイルスの影響もあって現地の大盤解説はありませんが、第66期の大盤解説は見に行きました。
常盤ホテルの中にも、この時初めて入りましたが、広い中庭があり、伝統を感じさせるホテルの雰囲気が、将棋のタイトル戦にはぴったりですね。
終局直後の中村太地王座。左端に斎藤慎太郎七段。
第65期王座戦もすごかった
羽生王座と中村太地六段が戦った2017年の第65期王座戦は、ニコ生やabemaで観戦しましたが、第1局がとにかくすごかったです。羽生王座が序盤からリードを奪い、中村玉をあと一歩のところまで追い詰めますが、中段に逃げ出した中村玉の生命力がすごく、際どいところで捕まらない。
形勢は二転三転、1分将棋にもつれ込み、最終的には羽生王座の投了となりました。
終局直後、扇子を仰ぐハヴォーザ(羽生王座)