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インハンド プロローグ(1) ネメシスの杖 感想

インハンド プロローグ(1) ネメシスの杖 感想


最近読んで、とても印象的だった漫画「インハンド プロローグ(1) ネメシスの杖」について、極力ネタバレせずに書いてみます。


インハンド プロローグ(1) ネメシスの杖

作者は「Final Phase」「リウーを待ちながら」など、パンデミックを題材にした作品を発表している朱戸アオ。
月刊アフタヌーンの2013年3月~8月号に連載されました。

ネメシスの杖は後に発表された医療ミステリ漫画「インハンド」の序章的な作品で、インハンドの主人公・紐倉が初登場します。

インハンド プロローグ(1) ネメシスの杖 感想
寄生虫研究所の所長を務める紐倉氏。


ネメシスの杖では、紐倉と、厚生労働省の下部機関「患者安全委員会」で医療事故の調査を担当する女性スタッフ・阿里玲のコンビが、国内で発生した「シャーガス病」にまつわる事件に取り組みます。

インハンド プロローグ(1) ネメシスの杖 感想
阿里玲。


ネメシスの杖 序盤のあらすじ

厚生労働省の下部機関「患者安全委員会」に、匿名で告発文が届く。

「台田総合病院は
シャーガス病に罹患している
患者がいる事を把握しながら
カルテを改ざんし届出を
怠っている。」

患者安全委員会の女性スタッフ・阿里玲は調査のため台田総合病院へ向かう。

病院で院長や医師と面談する阿里だが、のらりくらりとかわされ、何かを隠蔽しているような雰囲気を憶える。

その時、心筋炎で入院していた桶谷という患者が死亡。
患者のまぶたは腫れ上がり、シャーガス病の兆候を示していた。

患者を解剖し調査を進めようとする阿里だったが、何らかの圧力がかかり、遺族も解剖に難色を示す。
この件に関する調査の停止命令を受けた阿里だが、個人的なツテを辿り、寄生虫の専門家・紐倉の元に辿り着く。

台田総合病院で死亡した患者の血液を調べて欲しいという阿里に差し出された紐倉の手は、機械製の黒い技手だった。

インハンド プロローグ(1) ネメシスの杖 感想

シャーガス病とは

この漫画を読むまで聞いた事がなかったので、作品オリジナルの病気だと思ったんですが、実在する病気でした。

トリパノソーマという寄生虫が、南米に住むサシガメという吸血性のカメムシを媒介して人体に入り感染します。

感染するとまぶたが腫れ、トリパノソーマが侵入した部位に腫瘍やしこりなどの皮膚病変が現れます。

感染者の20~30%が心臓肥大や心不全、腸管合併症などの内臓疾患を引き起こし、最悪死に至る事もあるという恐ろしい病気です。





阿里玲

阿里玲はこの漫画の主人公と言っていい存在で、彼女が調査を進める事で物語が動いていきます。

毅然とした態度をとる厳しい面を持ったキャラクターですが、単なる正義漢という感じではありません。

この作品で最も印象深かったのは、阿里玲の持つ人間観でした。

結果が悪ければ悪いほど、その問題に関わった人間は「その人間が悪い」という風に思われがちで、フィクションや報道などでも、そのように表現されがちです。

しかし阿里玲は「そうではない」と言います。
少しの弱さ、少しのずるさ、少しの怠慢が積み重なって大きな問題を引き起こしてしまう事がある。

実際には一人一人は、弱い、普通の人間でしかないのだと。

人間はミスをする。だからミスをした人間を責めるのではなく、ミスを前提としたシステム作りを進める必要があると言うのが、阿里玲の考えです。


いや本当に全くその通りだよなと思い、阿里玲を通じて作者が語る人間観が、すごく腑に落ちました。


毅然とした阿里玲に対して、寄生虫専門家の紐倉はチャラいところがあり、技手を使って施錠された建物を鍵開けして侵入するなど、やんちゃで破天荒な面もあり、この2人のデコボココンビっぷりがとても楽しく読めます。


ネメシスの杖 感想まとめ

阿里玲と紐倉のキャラクターの面白さ、阿里玲を通して語られた作者の人間観、知られざる熱帯病と、興味深い内容がドラマとして上手く紡がれている大傑作だと思います。


物語上では、直近で発生したシャーガス病と思われる症例が、十数年前に発生した社会問題と繋がり、大きなうねりに向かいます。
この複層的な物語の構成も見事でした。


この作者の他の作品も読んでいきたいと思います。


この記事を書いた人
せみやま せみやま
生き物が大好きなWebエンジニアです。
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