演奏会・DVD・CDで聴くマタイ受難曲(J.S.バッハ)
自然を愛するクラシック愛好家、せみやまです。
クラシックは学生時代に新世紀エヴァンゲリオンのBGMとして使われていたのをきっかけに一時期よく聴いてたんですが、わりとすぐに熱が冷めて、それ以降はたまに好きな曲を流すくらいの僕でした。
このCDを繰り返し聴いてましたね。↓
クラシックに対しては長いこと、そういう距離感だったんですが、最近自分の中でクラシック熱が急激に高まってきています。
そのきっかけになったのが、今回ご紹介するバッハの「マタイ受難曲」です。
目次
バッハ マタイ受難曲とは
マタイ受難曲は、J.S.バッハ(ヨハン・ゼバスティアン・バッハ)によって書かれた、新約聖書を構成する福音書の一つである「マタイによる福音書」の26、27章に書かれている、キリストの受難をテーマにした曲です。オーケストラ、合唱隊、ソリストによって演じられる、3時間を超える大曲です。
二部に分かれており、第一部は29曲が含まれ、イエスが捕らわれの身になる場面までを描きます。
第二部は39曲を含み、裁判にかけられるイエス、総督ピラト、十字架への磔、イエスの死、そして埋葬を描きます。
マタイ受難曲の初演は1727年4月11日、ライプツィヒの聖トーマス教会で行われました。
この頃バッハは聖トーマス教会の音楽監督を務め、毎週のように礼拝のためのカンタータを書き、マタイ受難曲の他にもヨハネ受難曲などの代表作を手掛けていました。
彼の生涯の中でも最も意欲的に教会音楽の制作を行っていた時期に、マタイ受難曲は生まれたのでした。
合唱団甲府コレギウム・アウレウム(KoCoA)による演奏会 バッハ マタイ受難曲 YCC県民文化ホール(山梨県甲府市)2021年3月14日
妻のバク子に誘われて行った表題の演奏会が、マタイ受難曲との出会いでした。合唱団甲府コレギウム・アウレウムは、山梨大学大学院の教授・片野耕喜先生が2003年にスタートさせた合唱団で、山梨県内での演奏会を中心に活動されています。
この素晴らしい演奏会が大人1枚2,000円だったのは、本当にありえないほど有り難かったな~と思います。
古楽器ヴィオラ・ダ・ガンバの演奏を含んだ、この演奏会が素晴らしく、特に最終曲の「われら涙流しつつひざまずき」のドラマティックで感情を揺さぶる力に圧倒されました。
その感動を追体験したくなり、マタイ受難曲の名演とされるカール・リヒターのDVD、CDを買い求める事になったのでした。
【DVD】バッハ マタイ受難曲 カール・リヒター ミュンヘン・バッハ管弦楽団(1971年演奏)
「バッハの使徒」と呼ばれ、伝説的名演を数多く残した指揮者カール・リヒター。
このDVDは1971年にミュンヘンで演奏された、カール・リヒターとミュンヘン・バッハ管弦楽団・合唱団によるマタイ受難曲の映像作品です。
特に印象的な場面をDVDから引用してご紹介します。
指揮をするカール。かっこいい。
少年合唱団の歌声も聴きどころです。
祭司長らの計略とユダの裏切り
ユダヤ人の王を自称するイエスが目障りだった祭司長、律法学者、民の長老らは大祭司カヤパの邸に集まり、イエスを捕らえるための計略を巡らします。
イエスの弟子のユダは、銀貨30枚と引き換えに、イエスの身柄を祭司長たちに引き渡す事を申し出ました。
弟子たちに向けて語るイエス。全てお見通しのようです。
プレッシャーに耐え切れず、自分から言ってしまうユダ。
ユダってこんなに嘘をつけない人だったんですね。
裏切りなんて上手くいく訳ないですよ、この人!!!
イエスも即答。
ユダの裏切りを見抜いたのはイエスの特殊能力じゃなく、ユダがあきらかに不審な動きをしてたんじゃないでしょうか?
みんなのいる前で裏切者認定されたユダですが、他の弟子にやっつけられるでもなく、その後、普通に内通者として、イエスの身柄を祭司長たちに引き渡します。
その後の展開を考えると、裏切者認定した段階でユダを捕らえておけば、ユダも救われたんじゃない??と思ってしまうんですが。
その直後のシーン。
イエスがアンパンマンみたいな事を言っています。
アンパンマンの着想ってここからだったりするのかな?
イエス「寝るなよ!絶対寝るなよ!」 → 弟子( ˘ω˘ )スヤァ…
イエスは弟子たちに「今夜 君たちは皆 私につまづくだろう」
(お前ら全員、私より先に寝るんでしょ?どうせ。)
と言います。
弟子の1人、ペテロは「みんなが寝ても僕は寝ません!僕は絶対寝ないマンです!」と憤りますが、イエスはペテロに対して別角度からのカウンターを放ちます。
「今夜 鶏の鳴く前に、君は三度、私とのつながりを否定するだろう」と。
この恐ろしげな予言も、後で的中する事になります。
イエスが祈りを捧げている間に、自称絶対寝ないマンのペテロも含めて、弟子たちは全員寝てしまいます。
( ˘ω˘ )スヤァ…
これにはさすがのイエスも激おこでした。
超然としたイエスに対して、眠すぎて1時間も起きてられないとか、弟子たちがあまりにも人間的すぎて、その人間くさい駄目さが、なんとも味わい深いんですよね。
捕らわれるイエス
ユダが手引きした大祭司の配下がイエスの前に現れ、彼を捕らえます。イエスを見捨てて全員逃げる弟子も「ああ、人間…」という感じがします。
イエスの裁判
イエスを罪に問う裁判が始まりますが、有罪にするための決め手はありません。そこで2人の偽証人が現れます。
偽証人は「この男は公言した 私は神の神殿を壊して 3日で建て直せると」と言い、この偽証が決め手となり、イエスの死罪が確定します。
ペテロは3回否認する
邸に紛れ込んで事の成り行きを見守っていたペテロは、イエスの死罪が確定した事を受けて、その場を立ち去ろうとします。その場にいた民衆がペテロに気づき「お前~!イエスと一緒にいた奴やないか~い!」と突っ込まれますが「いや違うし!」と否定します。
なんとか門まで逃げて来たペテロですが、もう一人の人物に「あれ?君、イエスと一緒にいたよね?」と突っ込まれ「イエス?誰?ちょっとわかんないですね~」的な事を言って切り抜けます。
さらに周りの人々がやってきて「そのガリラヤなまり!!!お前~!イエスと同郷だろ~!」
と3度目のツッコミを受けたペテロは、図星を突かれて逆ギレし、イエスとの関係を力強く否定します。
その時、鶏が鳴き、ペテロはイエスに言われた事を思い出します。
「今夜 鶏の鳴く前に、君は三度、私とのつながりを否定するだろう」
イエスの言葉を思い出したペテロは、外に出て激しく泣きました。
悲しいシーンなんですが、あきらかにバレてるのに力技で否定して切り抜けようとするペテロが人間くさくてコントみたいで、面白いんですよね。
ユダの最期
ユダはイエスに死罪が言い渡されたのを見て急に焦りはじめ、祭司長たちに「すんませんした!銀貨30枚返すんで、イエス様を助けてあげてください!」と懇願しますが「今さらそんなん言われても困るし!自分で何とかしろよ!」と突っぱねられ「ウワァ~!!」となり、銀貨30枚を教会にばらまいて逃げ去り、首を吊りました。祭司長たちは「銀貨30枚あるけど、この血塗られた金を教会の収入にするのはちょっと…」と言って、その銀貨30枚で陶器職人の畑を買って、巡礼者たちの墓地にしました。
「そのため、この土地は血の畑と呼ばれるようになった。」と物語は続くんですが、先祖代々の土地に不名誉な異名をつけられた陶器職人も迷惑したでしょうね。
総督ピラトの職務放棄
ローマから派遣されている総督ピラトの下にイエスは連れてこられ、ピラトはイエスを尋問しますが、途中でピラトは「あれ?この人、何も悪いことしてなくない?」と気づいてしまいます。そこでピラトは祭りの時に囚人1人の罪を許し、無罪放免とする習わしを利用して、イエスと助ける事を思い付きます。
露骨にイエスを助けようとする事に危険を感じたのか、ピラトはバラバという囚人とイエスを指して「どちらの罪を許す?」と民衆に問いかけます。
民衆の答えは「バラバを許す」でした。
群集心理に突き動かされた民衆は、イエスが断罪される事を望んでいたのです。
十字架への磔刑も、民衆の提案でした。
「こいつら狂ってる、手に負えない」と思ったピラトは、興奮した民衆を抑えることをあきらめ、
「この義人の血について私は責めを負わない」
「君たちが責任をとれ」
と職務を放棄します。
茨の冠
ピラトの部下は茨の冠を編んでイエスに被せ、右手に葦を持たせて「見事なお姿で ようこそユダヤ人の王よ!」とイエスを嘲ります。嘲るためだけに、わざわざ茨で冠を編むなんて、手が込んでいますよね。
兵士たちの行き当たりばったりな行動
ピラトの部下の兵士たちがイエスを十字架に磔にするために連れて歩いていると、クレネ人のシモンという人にたまたま出会いました。クレネとは、今のリビアにあたる場所です。
兵士たちは、たまたま歩いてただけのシモンに無理やり十字架を担がせて、こき使うのでした。
この計画性の無い、行き当たりばったりな感じが、狂気と攻撃性を感じさせます。
イエスの死
ゴルゴタの丘で十字架につけられたイエスは「エリ・エリ・ラマ・サバクタニ!(神よ、なぜ私を見捨てられたのですか)」と叫んで絶命します。その瞬間、地震が起こり、墓地に埋葬された聖徒たちの死体が起き上がって歩き出し、イエスの見張りをしていたピラトの部下たちは「本当にこの人は神の子であった」と恐れ入るのでした。
われら涙流しつつひざまずき
最終曲「われら涙流しつつひざまずき」はイエスの死に嘆く人々の悲しみ、感謝、あらゆる感情が大きなうねりとなって大爆発します。
本当にこの曲は素晴らしく、マタイ受難曲の最後を飾るのにふさわしい名曲です。
【CD】バッハ マタイ受難曲 カール・リヒター ミュンヘン・バッハ管弦楽団(1958年演奏)
カール・リヒターの伝説的名演である1958年ミュンヘンでの演奏会の音源を収録したCDです。
音質や演奏の精度など、映像化している1971年版をしのぐハイレベルなもので、購入したばかりですが、これは生涯を通して聴いていける名盤ではないかと思っています。
マタイ受難曲 まとめ
聖書というと高尚すぎて取っつきにくい感じもあったんですが、マタイ受難曲はイエスの弟子たちやその他の登場人物の駄目さや人間くささ、群集心理、人間の攻撃性、狂気など、生身の人の感情を揺さぶる物語を素晴らしい音楽と共に味わう事ができる、人類史に大きく輝く名作だと思っています。今後もマタイ受難曲を何度でも楽しみたいし、クラシックにおける大作について、色々掘ってみようかと思っています。