川端裕人「我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち」
化石人類の研究は、人類発祥の地であるアフリカにスポットが当てられる事が多く、アジアの古代型人類は十分に注目されてこなかった。
しかし最近、フローレス島で発見された、成人しても身長1mほどしかない「フローレス原人」を初め、重要な発見が相次ぎ、にわかに注目が集まっている。
この本は、最新の研究に基づいて描き出された、想像以上に多様でダイナミックな「アジアの古代人類地図」への扉を開いてくれる。
収録されているエピソードの中で、印象的なものをいくつか紹介したい。
発見当初、「病気で大きく成長できなかったホモ・サピエンスに過ぎない」と、新種の人類である事を否定されたフローレス原人。
この本を監修した海部陽介氏の率いるチームにより、その祖先と思われる化石が、フローレス島のソア盆地から発見された。
化石の推定年代は、70万年前。
ホモ・サピエンスはまだ地球上に存在していない。
これにより「病気のホモ・サピエンス」という説は説得力を失った。
フローレス原人についてはもうひとつ、印象的なエピソードが。
フローレス島に伝わる民話には、いたずら者の「エブゴゴ」という小人が登場する。
そんな小人の住処を、村人が焼き払った…という、ぞっとする話が残っているらしい。
フローレス原人と人類が接触していたとして、フローレス原人はなぜ絶滅したのか?両者の間に何があったのか?
色々と想像をかきたてられてしまう。
また、これも海部陽介氏による、「ホモ・エレクトゥス(ジャワ原人)と現生人類は混血していたかも知れない」という内容を含む論文が、とても刺激的だ。
シベリアで発見された「デニソワ人」という謎の人類のDNAを、現生人類の中で比較的多く受け継いでいるのが、不思議な事に、遠く離れたオーストラリアのアボリジニや、メラネシアに住む人々なのだという。
氏はこの謎への回答として、「シベリアのデニソワ人とは、ヨーロッパから進出してきたネアンデルタール人と、それ以前に定住していたホモ・エレクトゥスとの混血なのではないか?」という大胆な説を唱える。
アフリカから長い道のりを経て、オーストラリアやメラネシアに至ったホモ・サピエンスの一団が、東南アジアでホモ・エレクトゥス(ジャワ原人)と混血し、そのDNAを取り込んだ。
その結果、「シベリアのデニソワ人」と「オーストラリアのアボリジニ、メラネシア人」が、共通のDNAを持つにいたったと言うのだ。
新しい化石の発見で、今まで常識だった「人類の系統図」が劇的に書き換えられる。
人類進化の歴史は、想像以上に多様で複雑だった事が明らかになってきた。
自分の中にも「ホモ・サピエンス」だけでなく、多種の古代人類や、未知の人類の血が流れているかも知れないと思うと、ゾクゾクせずにはいられない。
アジアの古代人類の研究から、今後も目が離せない。