芥川龍之介「女」
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9巻上では訳者の奥本大三郎先生による訳注で、芥川龍之介の「女」という短編について紹介されていました。
短編ですが、芥川による自然描写が優れており、非常に印象的な作品です。
以下、結末までのあらすじです。
花の蜜を吸いに来たミツバチに忍び寄り、毒牙の餌食にする雌蜘蛛。
凶暴な捕食者でありながら、子供を産みつけた卵嚢を飲まず食わずで甲斐甲斐しく守る。
絶食のため、ほとんど力尽きる寸前にも関わらず、旅立ちの準備ができた子グモの動きを感じ取り、卵嚢の殻を破ってあげさえする。
卵嚢から巣立ち、外の世界の光を浴びる子グモの陰で、役目を終えた母蜘蛛がひっそりとその命を終える。
一匹の雌蜘蛛の中に、激烈な毒と慈悲深い母性が同居する様は、一人の人間の中に凶暴さと慈悲深さが同居する様にもなぞらえられて、非常に強い印象を残します。
しかしその円頂閣 の窓の前には、影のごとく痩やせた母蜘蛛が、寂しそうに独り蹲まっていた。のみならずそれはいつまで経っても、脚一つ動かす気色さえなかった。まっ白な広間の寂寞 と凋 んだ薔薇の莟 の匀 と、――無数の仔蜘蛛を生んだ雌蜘蛛はそう云う産所と墓とを兼ねた、紗 のような幕の天井の下に、天職を果した母親の限りない歓喜を感じながら、いつか死についていたのであった。――あの蜂を噛み殺した、ほとんど「悪」それ自身のような、真夏の自然に生きている女は。
芥川龍之介「女」
「女」で描写されているクモは花に潜んでミツバチを待ち伏せしており、こうした生態を持つクモとしては、カニのように長い第一脚、第二脚をもつカニグモ類が知られています。
花で獲物を待つカニグモ科の一種、コハナグモ。
緑色で綺麗なクモだなと思っていましたが、ハチやアブが来るや俊敏な動きで襲いかかる、恐るべきハンターだったんですね。
クモと言えば網を張って獲物を引っ掛けるというイメージがありますが、色んな生態のクモがいて、とても興味深いです。